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ゾーンバスの魅力は創意工夫しながらの運営だと思います

2020年3月16日

神戸市北区淡河町。三宮から車で30分という都市近郊の農村地域であり、高齢化と過疎化が進む公共交通空白地域でもあります。公共交通による移動手段が乏しいこの町に、「淡河町ゾーンバス」という仕組みができました。

塩谷 將敏さん

神戸市職員。神戸市北神区役所淡河連絡所で地域活性化を担当。地域住民の思いや活動を行政の立場で支援する。

宮脇 隆紘さん

淡河町地域振興推進協議会 淡河町ゾーンバス運転手。淡河町ゾーンバスの運営も担う。

平野 有花

生活協同組合コープこうべの職員、コープ姫路田寺に勤務。祖母の運転免許証返納をきっかけに移動手段を考えるように。

運転免許証を返納したら生活が変わりました

平野

コープ姫路田寺という店舗で畜産部門を担当しています。昨年、祖母が車の運転免許証を返納しました。交通事故を起こしたら大変だからと思い切って返したんですが、たくさんの買い物や趣味のゴルフなどに行くのが難しくなってしまいました。まだまだ元気なのに、これまでみたいに行動できなくて、想像以上に不便を感じているようです。いい方法がないかと思っていたときに、「淡河町ゾーンバス」のことを知りました。いろいろ伺いたいと思っています。

塩谷

私は神戸市の職員で、北神区役所淡河連絡所に勤務しています。淡河町は三宮から車で30分という距離でありながら、市街化調整区域に指定されているので昔ながらの田園風景が広がる農村地域です。少子高齢化と人口減少が進んでいるなか、地域のみなさんが地域活性化をすすめておられます。みなさんの思いや活動の実現をサポートするのが私の仕事です。

宮脇

淡河町地域振興推進協議会で「淡河町ゾーンバス」のドライバーをしています。今は運営も任されています。

平野

さっそくですが、「淡河町ゾーンバス」について教えてください。どんな人が利用されているのですか。

宮脇

利用者さんのほとんどが地域の高齢者ですね。名簿では100人くらいですが、アクティブに利用されているのは50~60人です。停留所や自宅から、町の診療所や福祉センター、地域の集まりやグランドゴルフなどの送迎をしています。町外の病院へ行く方や帰宅する高校生など、路線バスのバス停への送迎もしています。

塩谷

淡河町は東西・南北とも10km以上ある広い地域で坂道も多いですから、車を運転しない住民のみなさんは移動に苦労されています。国道や県道から離れた集落で高齢化が進んでいることもあって、ゾーンバスという移動手段は重宝されています。

ゾーンバスのような移動手段があれば喜ぶと思います

平野

車の運転ができない場合、気軽に利用できる交通手段がなかったり、手伝ってくれる家族の都合が悪かったりすると大変だと思います。「淡河町ゾーンバス」はどのような仕組みなんですか。

塩谷

「公共交通空白地有償運送」といって、地域住民の生活に必要な移動手段を確保するために自家用自動車を使って行う有償運送です。一定の要件を満たしたNPO法人等が運営することになっていて、「淡河町ゾーンバス」は淡河町地域振興推進協議会が運営者として国に登録しています。

宮脇

現在、「淡河町ゾーンバス」として登録しているのは2台です。電話で予約を受け、片道300円の利用料をいただいて運行しています。停留所はあるのですが、そこまで来られない方は自宅まで迎えに行くこともありますね。

塩谷

自宅の上がり框(かまち)の上り下りが大変な方もいらっしゃいます。ドライバーも地元の方たちですから、その辺の事情もよくわかっていて、きめ細やかな対応をされています。

平野

地元の方がドライバーをされているんですね。

宮脇

はい、事前に講習を受けて活動しています。今ドライバー登録をしているのは5人で、農業をされている方や地域活動をされている方などです。普段は1台の車で回っているので、「何曜日は○○さんが担当」という形でやっています。予約の電話が入ると担当者のスマートフォンに転送されて、スケジュールはフリーの予定管理アプリで共有しています。

塩谷

ドライバーのみなさんは、「地域の足を支えよう」という意識で活動されています。

平野

私の祖母の場合は、用事があるときに母が手伝いに行ってますが、母の都合もあるから気を遣うし、頼みにくいときがあるかもしれません。ゾーンバスのような移動手段があれば喜ぶだろうと思います。みなさん感謝されているでしょうね。

宮脇

ゾーンバスがなければないで何とかされるんでしょうけど…。それでも、「これがなかったら、どっこも行けへんわ」とか、「お金を払うことで気を遣わなくていいわ」と言ってくださる方はいらっしゃいます。もうちょっと使い勝手をよくして、たくさんの人が利用できるようにしたいんですけどね。

阪口

地域に寄り添った運営をされていることもあって、毎月の利用者数は増えているんですよ。それに、ゾーンバスが運行する大きな意義は、高齢者に外出する機会を提供できるということです。ご家族と同居されていても日中はお一人ということもありますし、家の中にこもってしまうというのが一番よくないですから。

町全体が連携しているから若い世代が活躍できるんですね

平野

淡河町では、ゾーンバス以外にもいろいろな取り組みをされているそうですが。

塩谷

さまざまな世代の人たちが一緒に、地域活性化をめざした取り組みをされています。淡河町には、自治協議会や婦人会、民生児童委員協議会など、町内の各地域団体で構成される「淡河町地域振興推進協議会」という組織があります。ここで、地域活性化に向けた施策や活動について協議し、方針が決定されます。
それによって、次の担い手である若い人たちが、親世代やその上の世代の人たちにしっかり支えられて活動することができます。これは淡河町ならではのスタイルだと思いますね。

平野

町全体がうまく連携しているから、若い世代がしっかりと活躍できるということですね。ゾーンバスの稼働にもつながっているんでしょうか。

塩谷

そうですね。「淡河町ゾーンバス」の特徴は、30~40代のドライバーが多いということです。

平野

それはどういうことでしょうか。

塩谷

ボランティアタクシーのような取り組みをされている町はたくさんありますが、ドライバーの高齢化が問題になっています。やはり、定年退職後の世代が活動されているところが多いようで、淡河町ゾーンバスのように若い世代が運営の中心となっているというのは珍しいです。他の地域から視察に来られたときにも、ドライバーの確保と収益が一番大きな課題として挙げられます。

宮脇

「淡河町ゾーンバス」も運営は厳しくて、実働以外に待機時間があるので運賃収入だけでは採算が取れません。運行に係る経費も神戸市からの補助があって何とか成り立っている状態です。 日ごろの送迎の他に、休日には町内の施設や企業が一緒にイベントを開いたりという機会があって、そのときの送迎もさせてもらいます。人が集まると移動も必要になりますから、おかげでなんとかやっていけます。

平野

住んでいる人たちの声が形になりやすかったり、人が集まる場が多かったり。淡河町では、豊かな生活が続けられる環境づくりを、みんなで考えて実行されているということがよくわかりました。

宮脇

公共交通空白地有償運送って、移動手段の確保というだけじゃ維持できなくて、地域活性化の活動の一つとして参加しているという姿勢でないと難しいだろうと思います。

こういう取り組みが全国に広がったらいいですね

平野

「淡河町ゾーンバス」として、これからやっていきたいことはありますか。

宮脇

1月27日にスタートしたんですが、「淡河町ゾーンバス予約システム」というアプリを神戸市の協力で、コガソフトウェアという会社に開発していただきました。利用者さんは自分の好きなタイミングで予約できるし、ドライバーも受付の負担が軽減できるようになります。

塩谷

神戸市の「Urban Innovation KOBE(アーバンイノベーション神戸)」(※)という事業の一環で開発した自動音声応答による予約システムです。利用者が電話をしたら自動音声が流れるので、希望する日時や停留所を電話のボタンプッシュで予約してもらいます。予約があるとドライバーのスマートフォンに届くというものです。

※ Urban Innovation KOBE:神戸市の地域・行政課題をスタートアップ(成長型起業家)・ベンチャー企業と市職員が協働して解決する取り組み

平野

宅配の再配達みたいな感じですか。

宮脇

はい。スマートフォンやタブレットで実験をしたのですがうまくいかなくて、高齢者には電話のボタンプッシュの方が使いやすいみたいです。時間はかかりそうですが、使い方を説明しながら少しずつ慣れていってもらおうと思っています。そうしたら、夜中でも早朝でも思い立ったときに予約を入れてもらえるようになりますから。 それと、「クオリティ オブ ライフ」っていうんですかね。ゾーンバスで診療所に行った帰りに、友だちとおしゃべりを楽しめる場所みたいなものを提供していけたらいいなと考えています。

塩谷

都会に比べると不便なことは多いです。ですが、その不便さを越えてあまりある町の魅力を感じてもらいたいと、淡河町のみなさんは交流人口を増やす活動をされています。また、移住定住したいという人たちが住みやすい町づくりにも取り組んでおられます。私は、神戸市の各部署や兵庫県、他の行政機関や民間企業などと連携しながら淡河地域の活性化をしっかりとバックアップしていきたいです。

宮脇

自治活動って面倒くさい部分もあるんですが、それでも、暮らしている地区の消防団活動や清掃活動などで顔を合わせているうちに地域とのつながりができていくんですよね。

平野

淡河町のように、地域のつながりがあるほうが充実した生活ができそうです。簡単には進まないかもしれませんが、こういう取り組みが全国に広がったらいいですね。

撮影場所:神戸市北区(淡河宿本陣跡)

  • 11 住み続けられるまちづくりを

平野有花が感じたこと

祖母のことがあって、豊かな生活を続けられるという安心感がないと、運転免許を返納する人は増えないと思いました。そんなときに知ったのが「淡河町ゾーンバス」でした。
「淡河町ゾーンバス」の魅力は、委託ではなく、地域の若い世代と神戸市が連携し、創意工夫しながら運営していることだと思います。
宮脇さんは「運賃をもう少し安くしてあげたい、せっかく外出するのなら喫茶などの娯楽を増やしてあげたい」とおっしゃっていました。バスの運行が大変なのにも関わらず、地域の人の生活を潤わせてあげたいという強い思いを感じました。一方で「運転手の負担を分散させたい、報酬も増やしてあげたい」という運営課題もあげられていて、ゾーンバスを持続させるために試行錯誤されているのだなと思いました。
そして、自動音声応答式予約システムのお話を聞いて、運営で困ったときに行政が手を差し伸べているということに驚きました。
淡河町には、他の町にはない地域の声が形になりやすい仕組みが整っていました。「~だったらいいな」で終わらせず、地域の人の声を淡河町地域振興推進協議会で取りまとめて、地域の意向として活動するという唯一無二の強みを持っていると感じました。 このようなバスを運営するためには、地域でコミュニケーションがしっかりとれていて、地域の人の手助けをしたいというボランティア精神を持つ人たちがいて、その声を形にできる仕組みがあり、行政との連携が必要だと思いました。他の地域で同じようにするのは難しいかもしれませんが、仕組みが整えば、移動手段の問題だけでなく、さまざまな地域の課題が解決に向かうのではないでしょうか。私も地域のために行動できる人でありたいと思います。

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