CROSS TALK コープこうべの組合員や職員が、社会的課題の解決を実践している人に話を聞き、レポートしていく連載企画です。

CrossTalk 特定非営利活動法人あっとすくーる 渡 剛さん×コープこうべ 宮本 拓

左:渡 剛さん 右:宮本 拓

2018年1月22日

第10回 お母さんたちは、渡さんを待っていたんですね

大阪府箕面市にあるNPO法人あっとすくーるは、ひとり親家庭の中高生に教育支援を行っています。さまざまな支援があるなか、ひとり親家庭を支えたいと思ったのはなぜだろう、どんな問題があるのだろうと思い、代表の渡さんにお話を聞きました。

経済的困窮を抱える子どもたち

ひとり親家庭の問題点ってどういうところなんですか。

問題点はたくさんあります。父子家庭と母子家庭でそれぞれ違いがあるんですが、日本では離婚した母子家庭の方が圧倒的に多いので、主に母子家庭のことをお話ししますね。僕自身が母子家庭で育ったっていうこともあるので。

問題で一番大きいのは、経済的な困窮です。 離婚すると、住むところを探さないといけない人、働かないといけない人がいます。小さな子どもを預けるところがないとなかなか正規雇用で働けず、子どもが大きくなっても正規の仕事に就けずダブルワーク、トリプルワークになってしまう人もいます。

例えば、DV(ドメスティックバイオレンス)から逃げてきた人は話し合いができずに、養育費が支払われないこともあります。暮らすこと食べることで精一杯の家庭が多いんです。

経済的な困窮は、進学率も下がると聞きました。

そうですね。経済的な理由から暮らすこと、食べることが最優先になり、子どもの教育までの余裕がなくなります。生活のために長時間働いていると、進路を考える時期に子どもと話し合う時間がとれないことも多いです。子どもを学校や部活に行かせるのが精一杯で、「悪いけどひとりで考えて!」ってなってしまったり。一緒に学校見学に行けなかったり。

そんな中、子どもはとても一人では考えきれず、先のことを考えること自体を諦めてしまいます。これ以上親に負担をかけたくないのに進学なんて、っていう気持ちもあるんだと思います。

学習支援を通して親と子を支える

そうした問題の解決のために、渡さんたちは活動をされているんですね。「あっとすくーる」について教えてください。

「あっとすくーる」は7年前にひとり親家庭の学習支援事業でスタートしました。今は箕面市と高槻市に塾があります。ひとり親ではない家庭の生徒もいるんですが、ひとり親家庭の生徒には塾の月謝を半額にしたり奨学金制度を作るなどの仕組みを設けています。講師はボランティアの大学生で、事前にひとり親家庭の背景に関する研修を受けてもらっています。自身がひとり親家庭の大学生もいるので、塾生に親身に寄り添うことができています。

例えば、宿題をやってこなかった塾生がいても、サボったんだと短絡的に決めつけることはないですね。「小さい兄弟の面倒を見ていたかもしれない」「そもそも家に帰れていないかもしれない」という考えが自然とできてしまうんです。

そうした配慮が出来るのが「あっとすくーる」なんですね!

事業としてはもう一つ、不登校の子の家を訪問するサポーター派遣活動も行っています。家庭教師というイメージに近いと思います。これは箕面市と吹田市からの委託で行っており、派遣型の支援は日本でここだけかも知れません。現在塾生は40人、訪問している生徒は150人くらい。7人の職員と120人以上のボランティアで活動しています。

「あっとすくーるは本当にひとり親家庭のことを考えている」というコメントをネットで見つけました。どんなところがそう思われたんでしょう。

んー多分ですが、子どもたちの細かな心の変化を感じてあげられるところかも。そもそも自分が当事者だったので、「自分もそんなことがあったな」と思えるし、知らず知らずに配慮できているんじゃないかな。
もちろん子どもたちだけじゃなく、頑張っている親御さんの力にもなりたいと思っています。
「教育・進路のことなら僕たちに任せてください、その悩みぐらい一緒に背負いますよ」って。忙しい親御さんの代わりに授業参観や運動会にも行って、見守ったり応援したりもしています。

親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいですね!

写真提供:特定非営利活動法人 あっとすくーる

「あなたのような人を待っていた」と言われて

設立のきっかけはなんだったんですか。

もともと教師をめざしていました。大学2年生の時に友だちの誘いで参加したビジネスプランコンペで「君は何がやりたい?」と聞かれ、自分の経験を生かしたいと思ったんです。
あるとき、ひとり親家庭の集まりにお邪魔して、「僕も母子家庭で、ひとり親家庭の支援をやろうと考えているので話を聞かせてもらえませんか」って伝えると、「あなたのような人を待っていたの!」と言われました。とても衝撃的な体験でした。それから、自分を応援してくれたり、必要だと言ってくれる人が出てきて。もうこれは逃げられないなって(笑)

ひとり親のお母さんたちは、渡さんを待っていたのかもしれないですね。

はい。母子家庭で、お子さんが男の子だと大人の男性のロールモデルを示すのが難しくなるので、母子家庭で育った、それも男性であることが喜ばれたんでしょうね。

目の前の子どもに寄り添う

なぜ「学習支援」という形を選んだんですか?

始めは、大学進学のための奨学金制度を作ることを目的にしていたんですが、お金だけが問題なのか?と思ったんです。“お金っていうピースが埋まれば大学にいける”という子どもだけではないんじゃないか。それ以前のしんどい思いの積み重ねで、頑張ろうって意欲が失われている子が多いんじゃないかって。

そこで、子どもたちとの距離感を近く持ちたいと“塾”という形にしました。勉強を教えていく中で、学力はもちろん、やりたい事に向かって頑張ろうという意欲を育めたらと思いました。「やりたいことがあってもひとり親だから無理だ、親の負担になることはやりたくない」を、「頑張ったら何とかなるのかもしれない」って変えてあげたいなって。もちろん塾なんで、まず勉強意欲を高めるところからですけどね(笑)

勉強意欲を育むのって難しいと思うんですけど、どうしているんですか。

「まずはこの塾に来るのが楽しいと思ってもらいたいよね」って、職員みんなで話してます。勉強嫌いな子が塾に来るのは、親から言われて通い始めるんだろうし、面白くないと来なくなります。「ひとり親支援やってます」って大義名分を掲げても子どもたちが通い続けてくれないと何も始まらない。ここが好きになって家で塾の話をしてくれるのが第一歩かなって。

具体的には、どういうことをされているんですか。

平たく言えば講師と仲良くなること、気取った言い方をするなら信頼できる大人ができることです。そういう人と一緒に頑張るから学力もあがるし、成功体験が出来て「自分もできるんやな」って自信ができます。そこから「やりたいこととかないん?」って探していって・・・というのが大きな流れです。
ここは漫画や飲み物を置いたり、Wi-Fiもあるので、講義が無い生徒も遊びに来てくれるんです。居心地いい場所になれてるのかもしれないですね(笑)

写真提供:特定非営利活動法人 あっとすくーる

渡さんは、塾に通う子どもたちにどこまでのことをしていきたいと思いますか。

んーどこまで出来るかはわからないですけど・・・。2年前に「一人ひとりの子どもに徹底的に向き合う」ってスローガンを掲げたんです。それまでは教育支援としての最大のゴールは大学進学だと考えていました。けれど、大学を中退した生徒が仕事を見つけて楽しそうに頑張っていたり、昼間働いて通信制の大学に元気に通ってたりするのを見て思ったんです。自分で前向きに考えて選び取った生き方なら、それがその子にとっての正解なんだって。「俺たちをひとくくりにしてくれるなよ」って、彼らの生き方がそう言ってるように感じたんです。

だから、その子なりの歩み方で前向きにやっていけるようにしてあげたい。心が折れそうなこともあるけど、支えてくれる友人や施設があったら頑張って歩んでいけます。そのために、僕たちは限界まで頑張ります。それでも出来ないことは他の人の力を借りて、子どもたちを最大限支えられる力を持っていたいと思います。

塾の卒業生が次の世代を支えていく

最後に、これからの展望を教えてください。

最終的には、日本中の子どもたちのそばに、自分たちのような頼れる場所がある環境を作りたいです。家庭環境がどうであれ親に気を遣わず学べたり、大変なことがあったときに話を聞いてくれる大人がいたり、ひとりで家にいるのが寂しいときに誰かと一緒に過ごせたり。そんな場所が徒歩や自転車で行ける距離にあるようにしたいなって。

それを実現するためには、人材を増やして育成することが必要です。2~3年以内には、自分たちの事業をしっかりと安定させたいと思っています。
そのために、今繋がっている人たちに支援を続けてもらいながら、新たに「あっとすくーる」を応援してくれる人を増やしたいなって思っています。新しく始めたクラウドファンディングもその一環なんです。

クラウドファンディングを始められたんですか?

はい。Facebookでも動画を上げてるのでぜひ見てください。大学生になった元塾生と企画したんですが、奨学金制度の援助をお願いしています。うちでの審査に合格した学生はそのお金で勉強に励むことが出来ます。

親への負担を心配せずに学べるんですね。

これは凄く良い流れだと思うんです。塾で育った子どもたちが大人になって、次の世代の子どもたちを支える担い手になってくれる。「助ける」とかそんな大げさな話じゃなくて、「自分たちもこうやって育ってん。やから、気にせんといて!」と何気なしに言ってくれる。子どもたちの周りにそんな大人たちが当たり前にいる、これはそんな未来への一歩なんです。

特定非営利活動法人 あっとすくーる

大阪府箕面市を拠点に、経済的困難を抱えるひとり親家庭の子どもが将来に希望を持ち、努力ができる社会をめざして教育支援団体として活動している。
URL:https://atto-school.jimdo.com/

インタビューを終えて・・・

ひとり親家庭の子どもでも、自由に未来を選べる社会に。「あっとすくーる」のホームページに書いているこの言葉に、私は衝撃を受けました。「ひとり親の子どもたちは自由に未来を選べていない」ってことなのか、と。
調べるうちに、全員がそうでは無い、しかし「あっとすくーる」に来ている生徒の中には将来を考える余裕がない子どもが確かにいて、渡さん自身も同じ家庭環境であったことを知りました。
私が渡さんにインタビューしたのは、この問題があまり世の中に認識されてないんじゃないかと思ったからです。しかし、そこには確かに問題が隠れており、しかも思ったよりも自分達の身近にあることも知りました。
現在、日本の離婚率は約35%です。100組中約35組が離婚する計算です。
ひとり親になる家庭も増えているのかもしれないですが、しかしそれが子どもにとって辛い環境になることは防がなければなりません。でも親の頑張りだけでは出来ることは限られています。働くだけで手一杯で、それ以上のことを子どもにしてやれない現実を知りました。
渡さんも仰っていましたが、これは社会環境が整っていないことで起こる問題であり、それを解決する為にはたくさんの人の”巻き込み”が必要です。
この問題を新しく知った人が、知らない人をまた巻き込んで行くことで認識が広がり、関わる人も増え良い方向に向かっていく。
私の文章が、その一環として読んでいただいた人を新たに巻き込むことが出来れば嬉しいです。

文:宮本 拓(2014年入所)

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