CROSS TALK コープこうべの組合員や職員が、社会的課題の解決を実践している人に話を聞き、レポートしていく連載企画です。

CrossTalk 認定特定非営利活動法人D×P今井 紀明さん×コープこうべ 光本 幸平

左:今井 紀明さん 右:光本 幸平

2017年7月20日

第6回 僕もD×Pの活動に参加できますか

私は学生のときに、家庭の事情で親と同居できない小学生に学習支援をするボランティアをして、子どもたちに寄り添うことの難しさを感じました。通信制・定時制高校の生徒を支援する認定NPO法人D×Pが、高校生たちとどのように関わり、どのような支援をしているのかを知りたくて、理事長の今井紀明さんにインタビューしました。

D×Pの活動内容について教えてください。

通信制、定時制高校の生徒向けに「クレッシェンド」という授業をしています。これはD×P独自のプログラムで、「総合学習」などの授業として単位認定されています。
不登校経験、経済的困窮など、通信制・定時制高校には、生きづらさを感じている生徒が多いんです。そんな10代の若者たちが自身の現状を受け入れて、自分に自信を持ち、自分が描いた未来へ向かって自立していけるようにサポートしています。
現在、大阪府内を中心に、京都府、滋賀県、北海道の高校で活動しています。今年から兵庫県の高校とも一緒にすすめていくことになりました。

今の活動を始めることになった経緯は?

高校生のとき、イラク戦争で使用された劣化ウラン弾の被害状況に衝撃を受け、現地の子どもたちの支援がしたいと思ってイラクへ渡航しました。そこで、現地の武装勢力に人質として拘束されてしまいました。
このことはマスコミで大きく報道されました。解放されて帰国したときには、「危険な国へ勝手に行ったんだから自己責任だ」と、多くの人から非難の声が寄せられました。町を歩いていると、見ず知らずの人から怒鳴りつけられたり、自宅に大量の手紙が届いたりしました。その後、対人恐怖症で引きこもってしまったんです。
それでも、周りの勧めがあって大学へ進学したのが20歳のときでした。そこで、一緒にNPOを立ち上げることになる朴基浩(ぱくきほ)さんと出会いました。「自分で行動しないと何も変わらない」と いう彼の言葉がきっかけで、いろんな人と関わるようになり、自分のことも話せるようになっていきました。

その人との出会いが大きなきっかけになったんですね。

そうですね。そうして自分の精神が回復していくと、「自分よりも年下の世代に対して、何かできないかな」と思うようになりました。
大学卒業後は会社員として働きながら、仕事終わりにさまざまな場所へボランティアに行ったり、自宅をゲストハウス化したり、年間300名以上の人と関わるようになりました。
偶然、通信制高校に通う生徒向けにイベントをやる機会があったのですが、教室に入ると、人と話すことを避けるようにうつむく生徒たちがいました。そのあと通信制高校の生徒は不登校経験を持った子が多いことや、卒業生の2人に1人が進学も就職もしない(※2012年当時/文部科学省「学校基本調査」)ということを知りました。
親にも先生にも友人にも否定され、生きづらさを抱えた高校生と、イラク人質事件で大きな非難を受けた自身の姿が重なりました。
「彼らが、自分の未来に希望を持てるような社会をつくりたい」という思いが強くなって、この取り組みをはじめました。

「クレッシェンド」とはどんな授業なんですか。

“高校生と大人の関わり”と“対話”を軸とした授業で、高校生3人に対して大人1人の少人数制で4回以上行います。1クールは数カ月間、同じ高校生に対して、同じ大人が関わります。授業では、「否定しない」を基本姿勢に高校生と大人が対話することで、お互いに学び合い、理解し合いながら信頼できるつながりを築いていきます。
参加している大人は、20~40歳の学生や社会人のボランティアです。大人にも、辛かった経験やしんどかったことがあって、現在の姿があります。全員の話を全員で聞くことを大切にしています。
「クレッシェンド」のあとにもつながり続けられるように、「アフタークレッシェンド」や「チャレンジプログラム」という部活動的な仕組みも作っています。

授業を体験した生徒や大人の様子は?

私が体験したある学校でのことをお話ししますね。そのクラスでは、積極的に授業に参加してくる生徒もいましたが、単位取得が目的で仕方なく教室にいる生徒が何人かいました。その生徒は、1回目の授業では全く関心を示さず、教室の隅でチラチラと授業の様子をうかがっていました。でも、2回目になると面白がって参加してきたんです。3回目では、まじめに話を聞いていました。最後の授業では、自分のことを真剣に語ってくれました。
その生徒は、昼間は仕事をしていて、職場で先輩に怒鳴られたり不条理なことをされているようでした。学校の先生も苦手で、大人を信頼できない様子でした。でも、大人が「否定しない」という姿勢で関わり続けることで、少しずつですが「人を信頼するハードル」が下がっていったんですね。
そうしたら、自分がやりたいことに気づいたり表現できたりできるようになるんです。

写真提供:認定NPO法人D×P

授業を行う大人のボランティアは200人以上いて、彼らのことを「コンポーザー」と呼んでいます。コンポーザーになるには、自身の経験を話してもらったり、事前に研修を受けてもらったりします。結構大変なボランティアだと思うのですが、みんな濃密に取り組んでくれています。
訪問している学校の教師やコンポーザーからは、「生徒のことを勝手に決めつけていたかもしれない。もっと広い視野を持たなければ」「生徒から生きる姿勢を学んだ」「10代で彼らはちゃんと生きている。応援したい」というような声がありますね。

僕もコンポーザーになれますか?

なれますよ。コンポーザーの7割は社会人です。通信制高校の授業は、土曜日の夜7時や7時半からの開催なので、仕事終わりに参加できますよ。授業外でも、みんなでBBQやパーティーをして楽しむことがあるので、まずは、来てみてください。

写真提供:認定NPO法人D×P

認定NPO法人の経営について知りたいのですが。

うちの場合、2016年度決算では、8割が寄付による収入です。個人や中小企業からの寄付が多いですね。民間企業の支援で伸びてきました。
私立高校での活動は事業収入として成り立つのですが、公立高校だと収入より経費が大きく上回ってしまいます。公立高校の生徒には生活困窮家庭が多いですし、資金が足りないのが現状です。ですから、寄付を募りそのお金を使わせていただいて、公立高校にもきちんとしたプログラムを届けるようにしています。
非営利組織の存在意義は社会的課題を解決することです。そのためには人材雇用も必要だし、経営基盤を安定させないといけません。だから、剰余金は残していきます。
一般の企業だと、収益が見込めないことは事業化できません。ですが、私たちの活動を支援したいと寄付をしてくれる企業があります。もちろん個人で寄付をしてくれる方もいます。その寄付を資金に、自分たちにしかできないことをやっていくのが、私たちの役割だと思っています。

サハラマラソン(7日間で250kmを走るレース)へ参加されたそうですが。

はい、4月にチャリティーで参加しました。この挑戦をするためにクラウドファンディングで支援金を募集したんです。183人から520万円もの支援金が集まりました。その5分の1をマラソンの挑戦資金に、5分の4はD×Pの活動資金に使わせていただきました。
参加のきっかけは、マラソンを走るという生徒たちとの約束からでした。これから社会に出ていく若者に、大人がチャレンジする姿を見てほしかったんです。次は、大阪マラソンです。今年は、子どもの未来を支える団体として、D×Pがチャリティーの寄付先に選ばれました。8月31日までチャリティーランナーを募集しています。光本さんも一緒に走りませんか(笑)

写真提供:認定NPO法人D×P

今井さんがこれからやっていきたいことは何ですか?

今進めているのは、就労支援を確立させること。通信制では4割、定時制では3割の生徒が、進路が決まらないまま卒業していくというのが現状です。大阪で就労支援のモデルを作ってそれを全国に広げていきたいです。
これからは、個人の力が求められる時代がやってくると思っています。私たちの活動に共感してくれる人、私たちと同じビジョンをめざしている人たちと一緒に、若者が希望を持てる社会を作っていきたいです。小さな力かもしれないけど、積み重ねだと思います。同じ思いを持つ人に力を借りて、たくさんの人を巻き込んで、一緒に楽しみながらやっていきたいです。

認定特定非営利活動法人D×P

授業や活動を通して、不登校経験や経済的困難など、しんどさを抱えた高校生に「人とのつながり」と「成功体験」を届ける。10代の若者が自分の未来に希望を持ち、自立していくための支援を行っている。
URL:http://www.dreampossibility.com/

インタビューを終えて・・・

「夢を持つきっかけを失った10代の人たちに人とのつながりを感じてほしい、自分の未来を語れるようにしたい」と話される、今井さんの表情が印象的でした。私と年齢が近い今井さんが、多くの人を巻き込んで活動している姿を知って、うらやましいと思い、私も負けていられないと思いました。
また、今井さんの話のなかで、「収益が見込めなくて企業が事業化できないことを、うちがやっている」という言葉が心に響きました。
私は、「生協を地域の人や組合員が困ったときに一番に駆け込める組織にしたい」と思っています。テーマは違いますが、私は仕事のなかで沖縄の海と珊瑚を守るという活動をすすめています。今の自分にできることは何かを考えて、どんどん行動に移していこうと思いました。
大阪マラソンの話では、「D×Pの活動の支援者とともに走るんです。一緒に走りませんか」と、声をかけていただきました。今回はスケジュールが合わなくて断念しましたが、次のチャンスには、ぜひ今井さんと走ってみたいです。

文:光本 幸平(2012年入所)

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